輪廻ノ空-新選組異聞-
「そうじゃ」

お国の為に国事に関わりたいと言った以上、妨げにしかならない嫉妬心は捨てろ、と吉田さんはキッパリ言った。

「お主の馬鹿な行動が過ぎ、壬生狼の密偵が店に苦情を入れれば、お主はこの店を出ていかざるを得ん。それが如何に困るか承知じゃろ?」

「……」

「お紗英?」

「正体は分かってるのどす。殺したらええのどす。八郎はんは隊を離れたはる訳やし、そのまま抜けてしもたらええのどす」

ドキンと心臓が跳ねた。
こ、殺される?

「お主は…いらぬ血を流してなんとするんじゃ」

流す血は最低限じゃ。いらぬ恨みは争いしか生まん。と、吉田さんは驚くような穏便論。

「関口はんは甘い!」

紗英さんが鋭く叫んだ。

「血がどんどん流れる程せんと、世の中は簡単には変わりまへん!」

更に続く。

「うちはここにおられんようになっても、桝屋はんに行けばええだけどす。武器弾薬は扱われへんけど、管理は出来ます。表向きの商いかて、簡単どす」

だから、女の形をした犬への攻撃は止めない、と言い放っていた。

わたしは、ドキドキと激しく駆け足な心臓の鼓動をどうにか宥めながら、頭の中を整理した。

伊木さんの裏切りは明確になった。

そして、桝屋の存在。
これは大きな情報だ。

もう、これ以上の無理は悪い状況しか生まないだろうと判断出来る紗英さんの言動。

わたしは頷いた。

明日、屯所につなぎを入れて、事を運ばなくてはいけない。


まだ暫く紗英さん達の話は続いていたけど、わたしはソッと厠を後にした。
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