輪廻ノ空-新選組異聞-
室に戻ると、伊木さんはまだ寝息を立てていた。

念のため布団の中にそっと手を入れて、中の温度を確認する。

凄く暖かい。
熟睡が続いている証拠だ。

ホッとして、改めて伊木さんの顔を見る。

痛々しい。

いくら策略とは言え、痛みがなくなる訳じゃない。

「はぁ…」

思わず溜め息が漏れる。

呆れるよ。

わたしを甘く見すぎたせいだろうけど、紗英さんが無用心過ぎるし…。

寧ろ、わたしが何も気付いてないと思って警戒しなさすぎなのは、ここが彼らにとって味方の陣中だからだろうか。策だって大雑把。

それがわたしには幸いしたけど。

わたしは矢立を出してきて、たどたどしく文を認める。

「明け六ツ
 迎えを頼みます 蘭」

小さく畳んで懐に差し込む。

そして紗英さんを呼ぶ。

「すみません、八坂さんに行って参ります。八郎様が目覚めましたら、その旨お伝え下さい」

「何をしに行かはるのどすか。あと半刻(一時間)で夕餉どすえ」

鋭い視線と、冷たい語調。

「八郎様はわたしの為にお怪我をしました。急いで行って、ご祈祷をお願いした後、なおらいを頂いてきて、八郎様に飲んで頂きたくて…」

涙目になる演技をして伝えてみた。

「……」

しばし沈黙した紗英さんだったけど、頷いた。

「わかりました」

「では行って参ります。夕餉には間に合うよう戻ります」

告げて、わたしは池田屋を出た
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