輪廻ノ空-新選組異聞-
池田屋を出て最初は、不穏な動きもなく、歩けた。

三条大橋を東に渡って、鴨川沿いに四条通まで南下。見通しが良いから選んだ道。

すぐに尾行してくる気配に気付いた。

町人風だけど、足の運びが町人じゃないんだよね。不自然にキョロキョロしてるのは、わたしを見張りたいけど、目を合わさない為だろうな。

慣れてないのかな…。

あ、更にひとり増えた。

これは明らかに浪士。

右手はブラブラさせてるけど、左手は刀の鯉口を握っていて。いつでも抜刀できる体勢だよ…。

紗英さんが、わたしが出てから急いで殺すように頼みに行って…遅れて追い掛けてかたのかな。

でも、町人の女を人通りのある所でいきなり斬りつけたりという無茶はしないだろう、とわたしは八坂さんへの道を、常に別の歩行者の歩く側を付かず離れず歩いた。


八坂神社に着いて、石段を登って楼門を潜る。

ご本殿への道を歩き始めてすぐに、乞食の格好をした隊士が座っている。

お恵みとしてわたしが入れる一文銭には朱色で印が入れてあり、隊士は密命の詳細を知らなくても、その銭を見たら、頃合いを見計らって、指定の末社のお供え場所に置かれた密書を取りに行く手筈になってる。

直接紙をやり取りしているのが、ちょっとでもバレたら大変だから!

わたしはお恵みに印のついた一文銭を入れただけで、サッサとそこを離れ、身体健全のご利益のある末社に行って、鈴を鳴らしてお賽銭を入れ、お供えの蜜柑を出して、その下に小さく畳んだ密書を置いた。

その後、ご本殿に行き、祈祷をお願いし、なおらいを頂いた。
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