輪廻ノ空-新選組異聞-
身体を強張らせながらも、身構えて振り返る。

「大女やが、えらい別嬪さんやないか。座敷に行く途中か?地味な格好して。うちの座敷に呼んでもええか~」

単なる酔っ払い…!!

止まりそうになった心臓が、ちょっと落ち着いた。

「こ、困ります。芸妓ではありません」

「ほな舞妓か?歳くうてるようやが」

…!

失礼な!

失礼な事を言いつつ、益々、肩を抱くぐらいまで密着してきた男に、もう我慢ならなくて。体落としでもかけてやろうかと息を吸い込んで、体勢を作ろうとした瞬間。

「離してやってくんねぇかなぁ。こいつぁ、俺の女でさ」

なぁ、お蘭、と続いた言葉。そして向けられた笑み。

「伊庭様…!」

紛れもなく、僅か一刻程前にわかれたばかりの幕臣、伊庭八郎さんが立っていて、わたしの肩にかかった男の手を難なく掴んで離させてくれてた。
< 137 / 297 >

この作品をシェア

pagetop