輪廻ノ空-新選組異聞-
天然理心流は、実戦に即した剣法。
敵がこうきたら、こうやって受ける、流す、という応じ方を型で体に叩き込む。

だから、初めて剣道をした時、理屈じゃなくって、体が勝手に動いて応じ、負ける事はなかった。打たせて勝つ時もあったぐらい。自分のやってる古武道に自信がついた経験だった。

沖田さんは私を試すように動いたり、さすが、としか言いようのない使い手だった。でも次第にその動きが見えるようになってきて、楽しくて仕方なかった。剣道では得られなかった手応え。

すごい、すごいすごい!

沖田さんの余りな素晴らしさに心の中はいっぱいだった。腕試しをされている事も忘れて没頭してた。


「やめっ」

その言葉がこんなに残念なんて。
もっとずっとやってたい。

上がる呼吸を整えながら、蹲踞と礼をして下がる。

「おいで、蘭丸」

「……っ」

初めて見る満面の笑み。

ドキッと心臓が跳ねた。

「蘭丸?」

再び沖田さんに促されて、一緒にコンドーさんとヒジカタさんの所に行く。


「いや〜、参りました。結局一本も取らせて貰えなかった」

沖田さんの嬉しそうな声。

「おめぇは、加減を加えてただろ」

「おなごと戦うなんて…ありませんから、最初は加減しましたよ」

小声で答えた沖田さんにコンドーさんは頷いて。

「とにかく、この胸の縫い取りに偽りは無い事はよく分かった」

ヒジカタさんは私の左胸の「天然理心流」という刺繍を人差し指でトンと突いて言った。

「詳しい事も、今後どうなるかも皆目見当がつかねぇ。総司。おめぇの一番隊でいいな?早速必要なものを揃えて来い。勘定方に金子は用意させておく」

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