輪廻ノ空-新選組異聞-
すっかり陽が暮れて、店々の提灯に灯が入る。

お茶屋さんは店仕舞いしちゃったりしないのかと思っていたら、暮れた後は、ちょこっとお酒を出す店になるみたい。

これだけ人通りが多いと当然かな。

とか、気を紛らわせようと、無理矢理考え事を作るけど、落ち着かず、わたしは山崎さんが取ってくれたお茶も放置して、改めて池田屋に視線を向けた。

わたしの任務。

最後まで責任を持ってやり遂げたい。

情を捨てて、伊木さんにわたしの口から印籠…じゃなくて、引導を渡したい。

山崎さんがいる。どこか近くに土方さんと沖田さんもいる。中には伊庭さんも。

女の身なりだけど大丈夫。

自己満足の為に動いて、女の着物だからって失敗とかしたら、迷惑この上ないもん。

確認して、深呼吸して、わたしは立ち上がった。

「やり遂げて参ります」

わたしは小声で山崎さんに告げて、しっかり編まれた縄を貰って、着物の袂にササッと隠した。

黙って頷き返してくれた山崎さんに黙礼を送ってお茶屋さんを離れ、池田屋の戸口に立った。



「すんまへんなぁ」

「これも縁ってやつだあね」

と言う、伊木さんと伊庭さんの声が戸の向こうでして、ガラリと引き戸が開いた。

ドキッと心臓が跳ねた。

先に出て来たのは、頭に包帯を巻いたままの伊木さん。

「おっ、蘭」

伊木さんは、戸口の前でわたしの顔を見つけて…多分、何の疑いもなく笑みを浮かべて。

そして、紗英さんの事を詫びてくれた。

「しっかり叱らんとあかんな」

と叱責する口調で。

わたしは慌てて首を振った。

「怒らないであげて下さい。彼女の立場でしたら当然ですし…」

何より、そういう事はもう全て無意味です、と続けて、わたしは伊木さんの手を取って、しっかり握った。
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