輪廻ノ空-新選組異聞-
「蘭?」

驚いた顔は、わたしの方から手を握ったからみたいで。

「あの…ここでは何ですから」

戸口の前では邪魔だし、万が一伊木さんが抵抗したりしたら、迷惑がかかる。

わたしはチラッと中に視線を送って、伊庭さんと目を合わせたのだけど、伊木さんは紗英さんに気を回したと思ったのか、素直にわたしに手を引かれるまま。

少しホッとしたけど、気を抜かずに、今日のお昼の事件のあった小路に伊木さんを連れて入った。

わたしが奥に立って、三条通側に向かった位置で。三条通を背にした伊木さんの手を離さず、空いた手で袂から縄を出した。

「大人しくして下さいね」

わたしは縄をグルグルと伊木さんの手首に巻き始めた。

「蘭…?」

呆然としたような声。だけどすぐに笑いを漏らして。

「何の悪ふざけや?」

引っ込めようとする腕をしっかり掴んだまま、クルッと伊木さんに背を向ける態勢で小脇に腕を抱え込んで縄をしっかり結んだ。

「…蘭!!」

声が驚愕の色に変わった。

でも遅いよ。
遅かったよ。

どれだけわたしを甘く見て、油断してたんだろう。

わたしは縄の先を手に巻いてしっかりと持ってから、小脇に抱えていた腕が逃げだそうと足掻くのを制して、改めて伊木さんに向き直った。

「伊木八郎。間諜の罪、その他隊規違反等にて捕縛します」

「何やと…蘭」

声が震えてる。

「蘭!!」

凄い声で叫ばれた。逃れようと腕を引こうとするのを必死で止めた。

「残念です、伊木さん」

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