輪廻ノ空-新選組異聞-
「疑いがあるという事で、わたしは密命を帯びていました」

この京に来て初めて出来た純粋な友人だった。衆道っぽいところも愛嬌かな、とか思える部分もあった。だから本当に残念と伝えて。

でも、余りに衝撃を受けたからか、伊木さんはわたしの言葉が途切れろや否や、激しく抵抗した。

でも、伊木さんが背にしていた三条通から土方さんと沖田さんが現れて。

「諦めるんだな」

という土方さんの言葉を耳にすると、観念したようで、うなだれながらも「お手数おかけします」と。そう言って縄についた。

「八郎はん!!」

紗英さんの叫ぶ声。

「いやや!!行かんといて!!」

「八郎さんを捕まえる決定的な情報源は、無防備に何でも感情に走る紗英さんでしたよ」

わたしは寝間着のまま出て来ていた伊木さんが、伊庭さんによって着物を羽織らされている脇で、告げた。

「俺も恋に目が眩んでこのザマや」


人気のない通りを選んで、伊木さんを繋いでるようには見えないよう、縄を持った沖田さんは、伊木さんと仲良さそうに並んで歩いた。その背を見ながら歩く。

やっと沖田さんに会えた。
そう思うのはモチロン。だけど妙に緊張して。

多分沖田さんもそうで。

お互いまだ視線を合わせないまま。やたらと心臓ばかりが駆け足。

ゆっくりとした歩調で、全員が黙々と歩いていたのだけど…。

伊木さんが小さめながら、やけに朗らかな調子で口を開いた。

「にしても、蘭の字は見事におなご姿に化けると思うたら、ほんまにおなごでしたんやな」

沖田はんとの事も頷けま、と続けられた言葉に、わたしは血の気が引いていくのを感じた。

な、なな、何で!?と伊木さんに視線を向けて。でも言葉にならなくて口がパクパクしただけ。
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