輪廻ノ空-新選組異聞-
「ど、どうしたんですか、これ」

驚きの余り、聞く声が震えそう。

「実は…あなたが心配な気持ちと、評判のおなごの姿を一目見たくて、巡察明けに…」

様子を見に行ったのだと答えた沖田さんは苦笑を漏らして。

「おなごに何かを贈ったことなどないから…かなり気恥ずかしかった」

付ける機会はないでしょうが、この動乱が収まって、と言いかけた沖田さんは、言葉を途中で切って。

「早く着替えちまわないと、待ってる土方さんに叱られる」

我に返った様子で言うと、室を出て行き。

「前川邸の局長室で待っています」

「はい」

閉まる障子を確認してから、改めて鏡を見た。

「沖田さん…」

髷に挿された簪に触れる。
わたしに再会したら、挿そうと懐に入れて持っていてくれたんだと思うと、嬉しくて。

でも、最後まで口にはされなかった言葉。

動乱が収まったら…の続き。

新選組が役目が終わり、わたしの男装も必要はなくなるから…女物の着物を着て、簪をつけられるだろう。

そんな未来の話を、言い切らなかった事の意味は…重い。

動乱で、いつ自分が斬り死にするかわからない状況なのは、わたしも沖田さんも同じ。

未来の話は…余りに不確かだから、言葉にしなかったんだろう。

それに実際、史実なら…沖田さんはあと四年余…で…。

ブンブンと頭を振る。

そんな事考えてちゃダメだ!!

わたしは深呼吸をすると、着替えに掛かった。

着物を一気に脱いで、襦袢と単衣までを着ると、手早く脱いだ着物を畳んで、いつもの男装に戻る。

最後に髷。そっと簪を取った。それを懐紙に包んで懐深く仕舞う。

髷を崩して櫛を手に、ポニーテールに結い上げた。

鏡の前で化粧を落として、男に戻れと口にして、自分に気合いを入れ直して、大小の刀を腰に佩いて局長室に向かった。
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