輪廻ノ空-新選組異聞-
「須藤蘭丸、帰隊致しました」

近藤先生の前に正座をして、手をついて復命する。

「ご苦労であった」

重々しく答えた近藤先生は、隣の土方さんを促して。

「では報告を述べて貰おうか」

「はい」

わたしは土方さんの顔を見つめて頷いた。近藤先生も、わたしの斜め後ろに座る沖田さんも、出入り口の障子の前に座る山崎さんと、同じく観察方の島田さんも耳をそばだてたのが、気配で分かった。

わたしは少し沈黙して、気持ちを落ち着け、頭を整理すると口を開いた。

伊木さんの不審な行動、紗英さんの存在と行動。

そしてその紗英さんが口にした情報。

武器弾薬を集めて隠している桝屋の存在。

「桝屋か…!!」

土方さんは膝を叩いて唸るような声で言った。

「でかしたぞ、蘭丸。まず今は、それだけで大きな前進だ」

こんな短時日によくやった、と手放しの誉め言葉。

「伊木の事も、首尾よく尻尾を掴めたしな」

と、唇の片端を上げて。

「あの、伊木さんは…?」

「牢に込めてますよ」

沖田さんが答えてくれた。

牢。

切腹は決まり…。

そうと分かった上での任務。

でも自分が暴いたせいで死ぬのだという事実は大きい。

こんなに重いんだ…。

それがこの時代の誠で、宿命で。

伊木さんは自分の失敗で敗れてしまったのだ。同情は失礼だし、優しさでも何でもない。

わたしは最期の瞬間まで自分のこの任務の責任を果たさないといけない。

「最後まで責務は果たします。処断の席には絶対呼んで下さい」

わたしはきっぱりと告げた。

土方さんは目を見開いて。息を呑むのがわかった。室内全体が静寂を深めたみたいになって。

「そこまで求めてちゃいねぇんだが…」

「いけません。わたしは新選組の隊士です。やり遂げなくては、皆さんにも申し訳が立たないですし、自分を甘やかすことにもなるので、嫌です」

最後まで務めさせて下さいと、畳み掛けるように言った。
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