輪廻ノ空-新選組異聞-
「よく言った」

見上げた根性と覚悟だ、と土方さんは言って。

近藤先生も頷いて、笑顔になって。

「頼もしい限りだ」

言ってくれた。



復命を終えて、局長室を辞す時、わたしは沖田さんに伊木さんが入れられている牢を聞いた。

坊城通に面して格子窓のある座敷だと言われて案内された。

「八郎さん」

わたしは見張りの隊士に退いて貰って、座敷に入った。沖田さんはさっきから複雑そうな表情で。今も黙って座敷牢には入らず、出入り口に背を向けて立った。

わたしは声をかけたものの、何を言えばいいのか咄嗟には浮かばなかったんだけど、伝えることは伝えなきゃ、と口を開いた。

「わたしは最後まで役目を果たします。何か希望などありましたら、お聞き出来ることは叶えて差し上げます」

暫く沈黙が落ちた。

すっかり普段の簡素な武家姿に戻って、正座で座る伊木さんは、疲れだような顔をしていたけど、わたしをしっかりと見つめて。

「おおきに」

漸く開いた口からは普段通りの声音。

「ほな、ひとつ願いがある」

「何ですか?」

わたしも視線を外さずに聞き返した。

「蘭丸に介錯を頼む」

…………。

え?

介錯。

つまり、切腹の時に、背後から首をはねる…

ドクン

ドクン

体中が血管になったみたいに、血が逆流した後、一気に下がっていくような感覚に、言葉も出ない。

「伊木さん、それは未熟な蘭丸に頼むべき事ではありませんよ」

沖田さんも驚いたようで、抑揚の強張った声で、慌てて座敷に入って来て言った。

「沖田先生は黙っとってくれまへんか!」

言い放たれた凄い剣幕の言葉に、わたしは硬直した。
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