輪廻ノ空-新選組異聞-
「これは、俺の最後の愛情表現です」

伊木さんは沖田さんをしっかり見据えた後、わたしに視線を移した。

「介錯を頼むんは、好いた相手に嵌められた為の報復」

報復…。
ズキンと胸が痛む。

「苦痛やろうし、何より、蘭が俺を介錯することで、俺はずっと蘭の心の中で生き続けられまっさかい」

当然だ。
忘れられる訳がないのだから。

「何より、好いた者に斬られて死ぬなら本望」

また沈黙がおりて。

わたしは、黙って伊木さんの顔を見つめ続けることで、伊木さんの気持ちを読み取られればと、じっと見つめて。

視線を外さない伊木さん。

想いと気迫が痛い程伝わってきた。

断るつもりも、何より伊木さんから逃げ出したくはなかったから、決意と覚悟を固めるだけ。

だけ…。

幕末にきて、死が身近になって。人を斬ってきたけれど…

だけ、なんて言えないよ。

だから、伊木さんを見つめて、色んな思い出を蘇らせて、訣別の為の覚悟を据える。





「わかりました。お受けします」





「おおきに」

笑顔を向けられて、それが余りに爽やかで、突き抜けたもので。わたしもつられて笑みを返してた。

「ちゃんと腕磨いといてや」

「はい」

何か通じるものがあった。
動揺も、辛いと思うことも、同情も、悲しみも、今となっては全部、伊木さんへの侮辱になる。

こんなにまでわたしに向けてくれる想いには、応えなくてはいけない。

答えたい。


座敷牢を沖田さんと一緒に出た。

沈黙が続いてたけど、何となく玄関を出て、通りに出た所で沖田さんが口を開いた。
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