輪廻ノ空-新選組異聞-
「よく…頑張りましたね」

あなたの成長には、驚かされました。と、続けて。

「私はまだまだあなたの事をわかっていなかったみたいだ。まだ僅か半年。ここまで成長していたなんて」

万感の思いだと微笑して。

「介錯は…斬り合いに比べれば、斬るという事では容易です」

動かぬ相手を斬るのですからと。確かにそうだ。狙いを定めて、一思いに刀を遣えばいい。

「ただ、親しかった人を前にした時にどんな気持ちになるのか、冷静でいられるのかは…私にも未知の事です」

沖田さんはわたしの前に回り込むと、少し屈んで目の高さを合わせて、じっと顔を覗き込んできた。心配気な色が浮かんでる。

「大丈夫です」

わたしはきっぱりと告げた。

「先程、しっかりと覚悟を決めて、わたしは伊木さんの全てを引き受けました」

しっかり沖田さんの目を見つめ返して言い切った。

「……わかりました」

沖田さんは少しだけ息を抜いて、真剣な眼差しを返してくれながら頷いた。

そして、ポンポンとわたしの頭を軽く叩いて、

「私は黙って見守ることにします」

と言ってくれた。

「はい、必ず冷静にやり遂げてみせますから」

見守っていて下さい。笑顔で答えた。沖田さんは深々と頷いて、安心したような笑みを返してくれた。

でも…

「はぁ」

と、大きな溜め息をついて。

「どうしたんですか?」

歩き出した沖田さんについて行きながら尋ねた。

「いえ…」

何やら言いにくそうな顔で。

「あの、何かいけない事をしましたか?」

壬生寺の山門を潜って本堂に真っ直ぐ向かう足取りは,急にゆっくりになって。

「わわっ」

追いかけてたわたしは、沖田さんの背中にぶつかった。


「気が揉めました」

「え?」

「いや、はっきり言うのも情けないですが…」

妬けた、と。

ぶっきらぼうな感じで。

「あなたと伊木さん、二人だけの世界になっていましたから」
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