輪廻ノ空-新選組異聞-
わたしは一瞬ポカンとして。

それからハッとした。

「えっ、あの…」

焼き餅?

と聞き返したら、沖田さんは、ふいと顔を逸らせた。

…………。

「ぎゅう~って、していいですか?」

沖田さんの背中側から言った。

「え?何です…か…っ」

返事を待たずに、わたしは沖田さんを背中から、ぎゅう~っと抱き締めた。

沖田さんの香り。

着物を仕舞う行李に匂い袋を入れてるんだと思う。さり気なく香る爽やかな香りが、すっかり沖田さんにも馴染んでるみたいで、肌を合わせた時もふんわりと香ってた。

その香りが胸を満たして。

愛しい気持ちと、本当に戻ってきたんだと言う安堵とが溢れてきた。

「逢いたかった、です」

早く役目を終えたくて、沖田さんの事ばかり考えて、文が嬉しくて、と沖田さんを抱き締める腕に自然に力がこもっていって。

「好きです。沖田さんだけです」

「蘭丸…」

沖田さんは強引にわたしの腕の戒めから逃れて、体を反転させると向かい合わせになった。

「ありがとう。大人気ない私に呆れもせず…」

「呆れたりしません」

妬いて貰えるなんて嬉しいです、と告げて。

「蘭丸」

沖田さんはもう一度わたしの名前を呼ぶと、ぎゅっと抱き締めてくれた。

「本当に本当に、良かった」

またこうしてあなたと逢えて…抱き締められて、と低く言われた言葉には実感が籠もっていて。

死ぬ事も覚悟して臨んだ任務だったのだと、改めて実感する。

オホン、ゴホン、

と咳払いが聞こえた。

「てめぇら。離れやがれ!…副長自ら呼びに来てやって良かったぜ」

慌てて体を離す。

「伊木の処断の日が決まった。伝達するから来い」

「はい!」

わたしは着物が乱れていないかチェックして、沖田さんと一緒に、土方さんについて歩き出した。

不意に、つんと袂を引かれて。

沖田さんを見たら小声で言われた。

「着物の隔たりが邪魔でしたね」

「は…ぃ」

答えながら真っ赤になるのが自分でもわかった。

「おせぇぞ」

土方さんに怒鳴られて、早足になって屯所まで戻った。
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