輪廻ノ空-新選組異聞-
教えて貰ったばかりの介錯までの作法の手順を、一所懸命頭に叩き込みながら、真新しい白の単衣と銀鼠の仙台平の袴に着替えた。
昨日のうちに教えられていた斬首の手順は昨夜納得するまで稽古したから、もういい。余計な事は考えない。
「蘭丸」
控えていた室に沖田さんが来た。
黙って頷かれ、わたしは促しに応じて庭先に設けられた場に降りた。
「須藤蘭丸。お役、務めさせて頂きます」
伊木さんの前に立って、しっかりと顔を見つめて告げると、一礼した。
現実味がないっていうのかな…。
音が無くて。
でも伊木さんの息遣いは聞こえる。
時間が止まっているみたい。
じっとわたしを見つめていた伊木さんは、不意に口を開いた。
「局長、口をきいてもよろしおますか?」
「ん?ああ、良かろう」
おおきに、と伊木さんは近藤先生に目礼して。
それからわたしに改めて視線を戻した。
「蘭」
やけに明るい声。
「此度は有り難き仕合わせ」
大阪弁じゃない武家言葉。
でも次にはいつもの口調で。
「煩わせるけど、よろしゅうな。それと言い忘れとったんやけどな」
と、少し間を置いて。
「ごっそさん」
「は?」
黙って神妙に聞いていたのに、突然脈絡無く言われて、脱力しながら間抜けな声で聞き返してた。
「蘭の字の唇、美味やったわ」
「はぁ!?」
「寝てる間に頂戴したんや」
「なっ!!」
「吸うただけで、それ以上はしてへんから安心してええで」
「い、今言わなくても…!!」
幹部全員の衆人環視。
「今しかあらへんやん」
「そっ、それは…」
「力抜けたやろ?」
笑みが向けられて。ハッとする。ガチガチに緊張していたのだと気付いた。
「八郎さん…」
「よし、ほな頼むで」
「……はい!!」
昨日のうちに教えられていた斬首の手順は昨夜納得するまで稽古したから、もういい。余計な事は考えない。
「蘭丸」
控えていた室に沖田さんが来た。
黙って頷かれ、わたしは促しに応じて庭先に設けられた場に降りた。
「須藤蘭丸。お役、務めさせて頂きます」
伊木さんの前に立って、しっかりと顔を見つめて告げると、一礼した。
現実味がないっていうのかな…。
音が無くて。
でも伊木さんの息遣いは聞こえる。
時間が止まっているみたい。
じっとわたしを見つめていた伊木さんは、不意に口を開いた。
「局長、口をきいてもよろしおますか?」
「ん?ああ、良かろう」
おおきに、と伊木さんは近藤先生に目礼して。
それからわたしに改めて視線を戻した。
「蘭」
やけに明るい声。
「此度は有り難き仕合わせ」
大阪弁じゃない武家言葉。
でも次にはいつもの口調で。
「煩わせるけど、よろしゅうな。それと言い忘れとったんやけどな」
と、少し間を置いて。
「ごっそさん」
「は?」
黙って神妙に聞いていたのに、突然脈絡無く言われて、脱力しながら間抜けな声で聞き返してた。
「蘭の字の唇、美味やったわ」
「はぁ!?」
「寝てる間に頂戴したんや」
「なっ!!」
「吸うただけで、それ以上はしてへんから安心してええで」
「い、今言わなくても…!!」
幹部全員の衆人環視。
「今しかあらへんやん」
「そっ、それは…」
「力抜けたやろ?」
笑みが向けられて。ハッとする。ガチガチに緊張していたのだと気付いた。
「八郎さん…」
「よし、ほな頼むで」
「……はい!!」