輪廻ノ空-新選組異聞-
「沖田さん、お茶が入りましたよ」

「ありがとうございます」

桂川の流れを見ていた沖田さんは、障子窓を閉めると座卓に戻ってきて胡座をかいた。

「どうぞ」

「はい、ありがとう」

湯気を立てるお茶を、一口啜った沖田さんにつられるようにして、わたしも一口飲んだ。

「こちらにおいで」

座卓を挟んで向かい側に座ってたわたしに、沖田さんは自分の隣を指し示して言った。

「はい」

立ち上がって隣に移動して正座をする。

沖田さんも胡座から居住まいを正して正座になった。

そして、懐から出した文をわたしに手渡した。

ちょっと唾を呑んで、文を開いた。

「は…」

読めない。
達筆のそれは、うねうね繋がった文字で。

「すみません、沖田さん」

赤面しながら文を渡す。

「では私が声に出して読みますね」

「まさか八郎さん…わたしが繋がった文字を読めない事を知っていて沖田さんと読むように…」

サーッと血の気が引くような気持ちで呟いたら、沖田さんは首を振って。

「知っていれば、伊木さんの事ですから、私のように楷書で書きましたよ」

「そ、そうですね」

では読みます、と沖田さんは文に視線を落とした。

「先ずは有り難き仕合わせと認め候。女子に酷な頼みに候得共詫びは言わず候…」

自分は新選組と考えを異にするが、間違ってはいないと確信があり、今後腐りきった幕府は倒れるだろうと。そんな流れに愛するわたしを置いておきたくないと考えたと率直に書いてあって、まだ続く。

おのこでもおなごでも、愛していたと。

明るくまっすぐなひたむきさと、一所懸命な姿、溌剌とした姿がどんな人とも違って見えたから、惹かれてやまなかったのだそうだ。

「恐らく沖田先生も左様に御座候」

と、読んだところで沖田さんは沈黙した。
「沖田さん?」

「私は…」

最初からあなたをおなごだと知っていたから惹かれたのかも知れない、と低い声で。

「だとしたら、純粋にあなたを愛したという点では伊木さんの方が、あなたを想う気持ちは上です」

わたしは思わず目を見開いた。
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