輪廻ノ空-新選組異聞-
「分かりました、分かりましたから…!!」

あなたの気持ちは良く分かりましたと、沖田さんは繰り返しながらわたしを強く強く抱き締め。

わたしもギュッと沖田さんにしがみついた。

「でも、だからこそ…私が何を想ってあなたと伊木さんを見ていたか知って欲しい」

と、沖田さんはわたしを抱き締めたまま言った。

わたしは話を聞く為に体を少し離しかけたんだけど、沖田さんは「そのままで」と、わたしを抱き締める腕の力を緩めずに言葉を続けた。

「あなたは…伊木さんの気持ちの重みを、きちんと理解出来ていないと思うのです」

あなたなりには解って、だからこそ最後まで彼に向き合った。その事は偉いと思う、と言った沖田さんは、一度言葉を切って。

わたしにどう話そうかと、頭の中を整理してたのかな。間を置いたけど、また淀みなく言葉を発した。

「あなたは一番隊にいますが、平の隊士で、剣術の腕前も立つけれど、幹部隊士との差は歴然。更におなごだと知り、膂力は明らかに男より劣る。しかも尋常ではない状況、斬る為だけの場に初めてのあなたを指名した」

自分に置き換えて考えてみて下さい、と沖田さんは、そこで漸く体を少し離して私の顔を見つめた。

「介錯は私や齋藤さん、永倉さんなど手練れの隊士の役目だった」

それでも怖くない筈はない。なのに、剣術の腕前も不確かなおなごに介錯を頼む気持ちの大きさと重さが分かりますか、と沖田さんは畳みかけるように言った。

わたしは…

剣の腕の心許ない人に、首を差し出せるかな…

一回で死ねないかも知れない。


想像するのも怖い。



無理。

絶対に。


黙りこくったわたしの背を、沖田さんは優しく撫でながら言った。

「伊木さんの愛情の真実はここにあります」
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