輪廻ノ空-新選組異聞-
「うっ、うっ、うえぇ~ん」

ぎょっとした。

慌てて振り返ると、坊やが泣き出してた。

放置しちゃってごめん!

半身を起こして泣く坊やの側に寄って、背をさする。

「大丈夫、もう大丈夫だ」

名前は?お家はどこ?

聞いても、まずは泣きたいみたいで余計にワンワン泣き出して。

そりゃ怖かったよね、わたしも死ぬかもって思った。死にたくなかったから、余計に怖かった。

「よぉしよぉし!もう心配いらんぜよ~。坊は強いがじゃのぅ。こんだけ泣けよるんじゃ!元気元気じゃ~」

坂本さんが、ふんどし一丁で坊やを抱き上げてあやすように言うと、坊やは泣き止んだ。

…うまい!

こどもあやすの上手いんだ。

見とれていたら、鼻がムズムズしてきた。

「はっ…くしゅん」

くしゅん、くしゅん、と立て続けに。

「おんしも濡れたん着たままでいよったら、のうが悪うなってしまうがぜよ」

確かに寒かった。初夏とは言え、濡れたものをそのままはまずいかも。

坊やは坂本さんに任せて帰ろう、そう思って立ち上がったわたしの体の左側が重くて、そこで気付いたんだ。

「うわっ、か、刀差したまま水に入った…っ」

あわてて帯刀したままの刀を大小とも腰から外す。

泳ぎは得意な筈なのに泳げない訳だよ…!!

なんて言ってる場合じゃないよ!

どうしよう…。

考え始めたところで、坂本さんは坊やを地面に下ろしてわたしの所に屈むと、刀を手に取って鯉口を切った。

「どれどれ」

「うわぁっ」

やめやがれ!!

と、土方さんが乗り移ったような…や、とり憑かれた?みたいな言葉が出た。

「武士の魂を勝手に!!しかも、こどもの前で抜き身を晒すんじゃねぇ!!」

刀身を戻しながら、鞘ごと奪い取った。

「ほ~ぅ。みぶろにもおんしみたいな分別あるんが、おるんじゃのぅ」

「失礼な!!」
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