輪廻ノ空-新選組異聞-
屯所の前で大急ぎで駕籠を降りた。
駕籠かきの人にお礼を告げて、長屋門を振り返ると……。


山崎さんが驚いたような顔になってから、わたしの所に駆け寄ってきた。

「無事やったか…!!」

心底安心したような顔をした次の瞬間には、私の背後に視線を投げて、手を大きく振った。

「沖田先生!」

慌てて振り返ると…

パシッ

左頬に熱い痛みが走った。

「…っ」

叩かれたんだと認識した瞬間には、わたしは真っ暗な視界で瞬きを繰り返してた。

「どれだけ皆が心配したと思ってるんですかっ!」

と、叫ぶような声がして。

「ふっ、うっ」

嗚咽のような声がくぐもって聞こえてきて。

「無事で、良かった…っ」

ぎゅうっと強く強く抱擁されているのだと気付いた。

早鐘みたいな沖田さんの心臓。

「沖田先生は、あんたを探して駆け回ってはったんや」

山崎さんの声。

ぐい、と体が離れて。

「四条の橋にこんな羽織だけを残して、姿が見えなくなちまって!」

どこで何をしていたんですか、ときつく問われた。

「羽織だけ脱いで川に落ちるなんて在り得ないって、冷静なら分かるのに、流されたんじゃないかと川に入ったり、あちこち探して探して」

知らせを寄越すぐらい、すぐに出来るでしょう、と言われて、そうだった、と今更ながら気付いて深々と頭を下げた。

自分が無理でも、使いをやって貰うことぐらい出来たんだ。なのに…

こんなに心配させて…。







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