輪廻ノ空-新選組異聞-
「総司の野郎が心配し過ぎなんだ」

ったく、どこまで過保護なんだ、と土方さんは、わたしが拍子抜けするような事を開口一番言った。

「一刻や二刻遅くなろうが、そこまで心配しちゃいねぇさ。けどなぁ」

と、土方さんは、わたしが渡した壱兵衛くんのお父さんからの文を読みながら続けた。

「昨日、宮部鼎蔵の僕をひっとらえて、南禅寺に晒したところだろ。それでおめぇ達探索方も奔走してくれている。仇討ちやら、何やら不穏な事を企む輩は確実にいるだろう」

となれば、おめぇが帰ってこねぇのは、確かに総司みてぇな野郎には大きな心配の種だろうなと、言い終えて文を戻した。

「ったく…。おめぇらのせいで、男色が流行してるんだぜ、きっと」

と、苦々しいような、渋い顔をしてわたしを睨んだ。

「はぁ!?」

近藤先生も、男色が流行して困る、なんて笑ってた事が先日あったけど…。あれって、本当に困ってたの?

「屯所でそのような素振りをしているつもりはございません」

わたしは思わず頬を膨らませた。

寧ろ、土方さんに毒されて…

「今日なんて言葉遣いが完全に土方さんでした。色気も何もあったもんじゃありません」

と言ってやると、やれやれ、と土方さんは頭を掻いた。

「色気も何も関係ねぇよ。信頼しあった親密さが憧れの的なんだろうよ」

「憧れの的…!?」

「そう言えば…。今朝も立ち話をしている隊士の言葉を何気なく耳にいれとりましたんやが…」

と、わたしの背後に座っていた山崎さんが口を開いた。

「沖田先生を信頼しきった須藤の態度は…甘えている訳でもないのに沖田さんがつい甘やかしてしまう程爽やかで、感じが良い。お前もそれぐらい愛らしくなってみたらどうだ」

という言葉が聞こえ、続いて…

「だったら、あんたが沖田先生みたいに、懐が深くて細やかな性分になれって」

と続いたと言う。

「……平隊士で金がねぇのもあるんだろうが…妓も買わず、男同士で、な」

男女のまぐわいより、気持ちがいいみてぇだが、風紀が乱れて困る、と土方さんは溜息を繰り返した。

「す、すみません…」

と、思わず謝った。
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