輪廻ノ空-新選組異聞-
「あなたこそ、寒いんじゃありませんか?」

わたしの身震いに気付いた沖田さんが、そろとわたしの肩を抱いた。

「いえ、あの…怖かった事を思い出して…」

と、答えながらハッとする。

齋藤さんに、どこに耳目があるかわからないのだからと注意されたばかりだった。

でも…沖田さんは別にわたしを女扱いはしてないと思うんだよね。

こういう時はどうなのか分からないけど…。

一番隊から外れて、必然的に顔を合わせる機会は激減。

だからといって会いに来たり、行ったりとか…恋人同士っぽい事はしない。それが公私を分けるケジメだって、ふたりで話をした。

道場では相変わらず容赦無いしね。倒され、飛ばされ、打たれて熱い稽古だ。

「沖田さん…」

男色っていけないことでしょうか、とわたしは口を開いた。

「当人同士が良ければ良いと思うし、女の人に溺れるより、隊務にも励みが出ていて良いと思うんですが…」

男色、という言葉に気付いて、沖田さんはわたしの肩から腕を離すと、困ったように口を開いた。

「どうでしょうか。流行りですることではありませんし…変な気負いを生まないとも言えない。難しいですが」

近藤先生が憂えてるのは事実ですし…。と苦笑して。

「私達が原因のようですから、気を付けないといけませんね」

と言葉を切った。

降りた沈黙。

風ひとつない夕暮れの庭。
湿気の勝った重い熱気が、座っているだけで汗を滴らせる。

本当に暑い。

そんな京の空気には、まだ深刻な不穏を感じさせる棘を感じなかったけど…池田屋事件という大きな事件が起きるのは、あと僅か数日後の事なんだ。

わたしは気持ちを引き締めて探索に当たらなきゃ、と自分に言い聞かせた。
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