輪廻ノ空-新選組異聞-
「あなたは無茶を無茶と気付かず行う事が多いし、巻き込まれる事も多いような気配で、心配だ」

少し早口に、淡々と紡がれる言葉を、わたしは黙って聞く。

「でも、忘れないで下さい。あなたは、あなただけのあなたではないんです」

更にギュッと限界まで抱き寄せ、抱き締められて。

「私の…、蘭子さんでもあるんですよ」


「…っ!!」


心臓が止まりそうなぐらい跳ねた。


蘭子。


そう呼んでくれる家族も友達もいない世界。

自分でもそれを捨て去って生きる覚悟を決めて。

久しく思い出すことも、もちろん耳にすることも、呼ばれることもなかった、わたしの名前。

それを…


誰でもない、沖田さんが…


沖田さんが…


呼んでくれた。


覚えていてくれた。


そうやって想っていてくれた。


蘭子、と。


「う……」


胸がいっぱいになって。

喉の奥がひどく詰まって。

溢れだしてくる…感動って言うのかな…。なんだろう…とても言葉には出来ないけれど…。いっぱいの何かが嗚咽になって、涙がこぼれそうになった。

たまらなく愛しいと、自分を抱きしめてくれる、このぬくもりを持つ人を、誰よりも、どの世界の誰よりも愛しくてたまらないと思った。


「自分をもっと、大切にして下さいね」

と沖田さんはわたしの髪に唇を埋めて告げる。

「もし、あなたが私と同じように、私を想ってくれているなら」

と、続いた言葉に慌てて顔を上げた。

「もちろんです!!」

わたしだって沖田さんを…

「沖…、…総司さん、愛しています」

わたしは瞳と瞳を合わせて、心からの言葉を告げた。


< 179 / 297 >

この作品をシェア

pagetop