輪廻ノ空-新選組異聞-
掠めるようなキスを交わして、わたしたちは体を離した。


「すみません、昨日の心配を思い出すと、またどうにも不安になってしまって」

通りへと戻りながら、沖田さんはボソボソと言った。

そんなに心配させてたんだ。

伊木さんとの任務の時と言い…わたしは沖田さんに心配ばかりかけてる。

しっかり自重しないと!

「沖田さんに心労をかけないよう、しっかり注意します!!」

さっきの抱擁を…思い出して、と付け加えて。

「あ、それと」

私は更に追加した。

「沖田さんだって、巡察含めてお気を付け下さいね」

それはわたしだっていつも心配してる。白刃の下を毎日潜ってるようなものだし…

さっきもそうだけど、疲れ知らずみたいだから、体調の事も後回しにしてそうだから。

「分かりました」

沖田さんは微笑みながら頷いてくれた。

わたしも笑顔で頷き返して。

「では、心して行って参ります。沖田さんも頑張って下さいね」

追い掛けてきて下さってありがとうございました、と付け加えたら、「どう致しまして」と、また笑みを向けてくれた。

それだけで嬉しくて、ときめいて、ドキドキと胸が高鳴る。

「ではまた夜に」

「はい」

わたしは沖田さんを見送ろうと立ったままいたんだけど…

「行って下さっていいですよ?」

同じように動かない沖田さんを促す。

「いえ、見送りを」

「わたしもです」

二人で吹き出す。

「では同時に背を向けましょう」

沖田さんの提案に頷いた。

「では、一、二の…」

三、と背を向けた。

でもやっぱり見送りたくて、数歩歩いて振り返った。

そしたら沖田さんも同時に振り返っていて。


どうしよう。
どうしよう、嬉しい。

すごく。

何だろう、この幸せな気持ち。

胸が熱くなって。


お互いに満面の笑みを交わした。

ちょっと苦笑みたいな。

離れがたくて、

本当は戻りたくて。

でも振り切って、手を振った。

頷き返してくれた沖田さんは、自分から背を向けて、わたしの背を押してくれた。

わたしも沖田さんとは逆方向、東の祇園方向に向かって歩き出した。
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