輪廻ノ空-新選組異聞-
「奪われたもんは仕方ねぇ」

桝屋での騒ぎについての報告を聞いて少し慌てた近藤先生とは違って、土方さんは怒りもせずに言い捨てた。

「今はとにかく、古高の取調の手をゆるめず、僅かでも情報を得るのが先決だ」

こうなった以上、過激派浪士達は、奪った武器弾薬で事を起こすにしても、古高の事をどうするにしても、相談しなくては始まらないのだから、必ず今夜までには、会合があるはずだと、土方さんは断言した。

説得力があった。



で。



わたしの胸がどんと重くなる。


「池田屋事件」



なんだ。

池田屋なんだ、きっと会合が行われるのは。



言いたい。



言いたくてたまらない。



でも、いいのだろうか。



そうする事で歴史に変な影響が出たりしないかな。



近藤先生、土方さん、そして沖田さんの三人だけは、わたしが未来から来た事を知ってる。

でも、わたしに全く歴史の素養がないことも知ってる。

だから何も口にしないんだろうけど…

でも、沖田さんだけは、わたしが軽い年表を持っている事を知ってる。

なのに、一度として触れてきたことがない。

告げた時も、少し驚いたみたいだったけど、そうですかって、それだけだった。

興味が全くない筈はないとして…、知りたくないんだと思う。

わたしだったら…怖いと思う。

でも…話した方がいいかな。

せめて、わたしが場所を知ってるって事だけでも。



でも…



何だか言い出しにくいんだ、沖田さんには。知りたくないと思ってる様子だから尚更。



土方さん…。



あの人なら…さっきの統率力といい、説得力の強固な理知的なところといい、ずば抜けた頭の良さなんだと思う。

だから、少し打ち明けてみようか…

わたしは、解散を告げられて役目に従って散っていくみんなに紛れて、立ち尽くしてた。
< 183 / 297 >

この作品をシェア

pagetop