輪廻ノ空-新選組異聞-
「相分かった。藩侯にはかって後、早急に善処致す」

あっさり言われ、わたしは唖然とした。

「えっと、あの…急を要します。本当に宜しくお願い致します」

念押しの為に付け足したら、家老が目をむいた。

「そなたは、この会津を疑うておるのか!無礼であろう」

ひっ!!

怖い。怒らせたら駄目だ。

わたしは平伏した。

「左様なことはございません!ただひとえにお願いの一心でございます!申し訳ございません」



わたしは急かされるようにして会津本陣を出た。

落ち込む。

使いを任されたのに、わたしはちゃんと全うできなかったんじゃないかな…。

がっくりしながら、本陣のある金戒光明寺の大きな山門を潜る。

「追い付いたべ」

と、いきなり背を叩かれて、わたしは「ぎゃっ」と短く悲鳴をあげた。

「す、すまねぇ。驚がす気はながったんだべしが」

会津弁かな?

なんか…あったかい。さっきのゴカロー様が怖かっただけに。

「失せものはねが?」

……?

「失せもの?」

無くしたもの、かな。

「ねが…は、ないか?かな」

独り言のつもりが、相手に思い切り聞こえていたみたいで恐縮された。

「申し訳ござらん!国の言葉で失礼致した」

控えの間に落として行ったものがある、と紙切れを手渡された。


かさかさ…


ひっ!!


年表!!


池田屋事件の事を確認したくて、出してきたのを性懲りもなく何度も見直していて、そのまま袂に入れっぱなしだったんだ!!

「よ、読みましたか?」

「いや、読んではおらぬ。落とし主を見つけんが為、不躾ながら開いて覗きはしたが」

「……」

さっきまで好青年だったのに、武家言葉になった途端威圧的だ…

「なじょぅした?」

「は?」

「あ、相済まぬ。如何致した」

どうしたのか聞いてくれたんだ。

「大丈夫です。すみません」

それより、お国言葉でいいですよ、その方が好きですと付け足したら、突然真っ赤になられた。

「忝い。まだ国から出て来たばかりゆえ…」

「……また武家言葉」

「す、すまねぇ」

思わず顔を見合わせて吹き出した。
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