輪廻ノ空-新選組異聞-
柴司(しば つかさ)と名乗ったその人は、沖田さんより年下に見える。

素朴な感じなのだけれど、武士らしく一本背筋に芯が通ったようなまっすぐさ。

なのに恥ずかしそうにする様子が可愛い。

「年若に見えっけど、新選組で頑張っでんべ。おらもお役さ立てるよう精進すっがらなし、汝(にし)も頑張ってくんつぇ」

そう言われて見送られた。



柴司…。

どこかで聞いたような、見たような…。

そんな事を思いながら、わたしは屯所まで大急ぎで戻った。

今はとにかく、今日の…新選組がおそらくもの凄く活躍する事件に集中しなくちゃいけない。



屯所に戻って、土方さんに復命しようと副長室に行ったらいなくて。

「土方副長なら土蔵で古高の詮議をしているが」

齋藤さんが通りがかりに教えてくれた。

「行かぬ方がいい。呼んで来よう」

齋藤さんが珍しく、少し慌てたように言ったけれど、わたしは首を横に振った。

「僅かな時間の浪費も惜しいですから」

何か行かない方がいい理由があるんだろうけど、わたしは齋藤さんに一礼すると、小走りに前川邸の土蔵に向かった。


呻き声。


「どうせ吐くなら早い方が楽だぜ」

ビシィッ

「吐かねぇか!」


ご、拷問?

こっちの身がすくむような声。

でもわたしは思い切って扉を開いて中に入った。

蒸し暑い中、籠もる生臭い臭い。

は、吐きそう。

でも、とわたしは目を凝らして土方さんを探す。

人を斬ることだって乗り越えてきた。いちいち立ちすくんでいてはいけないんだ。わたしは只でさえ足手まといになりやすい、未熟さなんだから。

「土方さん!須藤戻りました!」

薄暗いので、叫ぶ。

「おぅ、首尾は」

「会津は藩侯にはかってのち早急に善処するとの事です!!」

「ご苦労!」

答える土方さんの声で居場所が分かって視線を向けると、その前に血まみれの男が半裸で腕だけ吊されてぶら下がってた。

…………。

土方さんが自らやってるんだ。
普通、偉い立場の人は詮議するだけでいいのに。手を汚すのも土方さんなんだ。

わたしは改めて、土方歳三という人の凄さを感じてた。
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