輪廻ノ空-新選組異聞-
「三々五々の集合とは言え、遅参するんじゃねぇぞ」

土方さんは言い置くと、スタスタと沖田さんの室を後にした。


しばらくお互いに動かず、しんと沈黙が落ちてたんだけど…


同時に溜め息。


「驚きましたね」

「は、はい」

苦笑が漏れる。

「とにかく…」

沖田さんは清光を手に、立ち上がった。


「…っ」


一瞬フラついたように見えた。

でも、声を掛けるより先に沖田さんはしっかりした立ち姿になって、腰に脇差と清光を差した。


「新選組の正念場です。病で動けぬ隊士が多い今、しっかりお役に立って参らねばいけません」


わたしは、心配が渦巻くのを感じながらも、頼もしく言う沖田さんを見上げ、そして深く頷いた。


「では行って参ります」

沖田さんは衣紋掛けから隊服の黒い羽織りを取りかけたけれど、思い直したように押入の行李から、一番最初に隊服として身に着けていたという、わたしでも知っている有名な浅葱色の羽織りを取り出した。

「何かあった時、夜ですし、味方の区別がつきやすくなりますから」

と、袖口に白く染め抜かれたギザギザ模様を指差した。

「市中では目立つので持って行きます」

と、小さく畳んで懐に入れた。



「では改めて…」

行って来ます、と沖田さんはわたしに告げた。



「はい」



胸に込み上げる気持ちは、余りに一杯で。

心配はもちろんだけど、命を賭した現場に向かい続ける限り、毎回の巡察への送り出しだって、今生の別れになるかも知れないという気持ちがある。

年表で沖田さんはまだ死なないって分かっていても。



わたしは正座をし直し、膝の前で三つ指をついて、深々と頭を下げた。

「ご武運をお祈りしています」
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