輪廻ノ空-新選組異聞-
「丁度、拵えも上がったところですよ」

明かりの入った店先で、沖田さんが仕上がった刀の拵えの確認していた手を止めて振り返った。

「沖田はんのは二代目のええとこ全部が出た雄大な業物。須藤はんのは…小柄なお武家が特注した言う謂れがありますよって、小振り。沖田はんのを「をのこ」としたら、須藤はんのは「おなご」風な軽やかさどすな」

おなご…。
それって褒められてないよね……。

「膂力に自信がないなら、一番良い選択です。命に関わる選択ですから。何より、こんな珍しい国清と縁があって良かったじゃないですか」

わたしの複雑な表情に気付いたんだろうけど…。ナイスフォローだよ。そうだった。命に関わる買い物なんだから…!

「それじゃあ、帯刀して下さいね」

沖田さんは脇差を差し出し、わたしは言われるまま腰に。続いて大刀。慣れた行為だけど…ズッシリ重い。使うような事……

「使うような事にならないよう祈りましょう」

わたしの考えてた事をすくいとったような言葉が沖田さんの口から漏れて。胸が詰まった。

「無理でしょうけれど…」

ぼそっと追加された言葉に、ガックリ肩を落とす。

「では主、世話になりました。また宜しくお願い致します」

「へぇ。いつもご贔屓に、おおきにありがとさんどす」



連れ立って店を出た。
暫く四条通りをそのまま歩いて。

「肚を据えて下さい」

突然沖田さんが口を開いた。

「あなたのいた時代が、どんな時代だったかは知りません。ですが、あなた。隙だらけです。いつ襲われちまっても仕方ないぐらいに、です」

ドキッとして姿勢を正した。思わず辺りを見回して。

「は、はい。気を付けます」

見渡す限りの世界が…当然だけど、全然知らない世界で。不安になるぐらい広い空。低い町並み。人の姿はまばらだけど…みんな小柄で、時代劇に出て来る格好してて。犬の遠吠えとか…異様に大きくて。

この世界には…バクマツには…わたしを知る人は誰もいない。

ひとりも。

わたしはひとりぼっちなんだ。

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