輪廻ノ空-新選組異聞-



慶応四年(1868)
五月三十日
沖田総司 病没



今は、

元治元年、

1864年。

だから大丈夫、死なないから!!


自分に言い聞かせる。


「須藤!!早よしなはれ!茫然としてる場合やないで!!」


山崎さんに怒鳴られて、やっと沖田さんの方を振り返った。



戸板に横たわる沖田さん。

浅葱色の羽織りが、どす黒い血まみれに。



それを見た瞬間、肝がすわった。


「沖田さん!!聞こえますか!?」

ほっぺたを叩いて声かけ。


「沖田さーん!!痛いところはありませんか」


屈んで耳元で叫びながら、羽織の前を開く。

「切れてない…」

血を浴びただけで無傷の羽織に心底ホッとしながら、どうして気絶しているのかあちこち確認する。手も腕も、足も斬られてない。怪我なし。

体調?

ハッとしてもう一度ほっぺたに触れる。

やっぱり、まったく汗をかいていない。


「沖田さん!!」


「ん……う…っ」


顔色も、血糊で分かりにくいけど、真っ白みたい。


「気づきましたか!」


汗をかかない、かく汗が出ない程、水分が足りてないということ。


いつも稽古とかでは一杯汗をかく人が…。


「沖田さん、わかりますか!名前を言って下さい」

「蘭丸…。私は、沖田総司です」

よかった…!

「そうです。何があったんですか?気分は?」

「ずっと一日吐き気がしていて…実は嘔吐もあって…」

「水分とってましたか?」

気分が悪くなったみたいな苦痛の表情をしたので、話させてはいけないって、遮って簡潔に問う。

沖田さんは首を振った。

「あんまり汗をかきますし…、食欲もなく…」


「バカっ!!!」


わたしは叫んでた。


「人は体のほとんどが水分で出来てるんですよっ!! 水分が足りなくなったら死にます!」


自分を大切にするって約束したじゃないですか!


怒りが途端に怒髪天みたいになって言い募ってた。
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