輪廻ノ空-新選組異聞-
「沖田先生に馬鹿とは…」

山崎さんが唖然とするぐらい大きな声だったみたい。

「馬鹿ですよ、馬鹿。水さえ飲んどきゃ、こんな事態にならなかったんですから」

心配が最高潮だっただけに、怒りが一気に湧いた。

「重度の熱中症と脱水症状」

汗を大量にかく熱中症の症状を通り越して酷いことになってたんだ、脱水状態が。

「水をお願いします!!大量に!!」



沖田さんに柄杓を渡して、上半身が起きてられるように支えながら、水を沢山飲ませた。

「すぐには良くなりませんよ。意識がしっかりしないでしょう?吐き気と腹痛がある筈ですが、これはじきに快復しますから」

ゆっくり寝ていて下さい、とわたしは言い置いて沖田さんのところを離れた。


にしても…気分は悪い上に朦朧としてた筈だけど…藤堂さんまで負傷する池田屋で、よくかすり傷ひとつ負わずにいたな…


剣の天才だから?


わたしは心の中で呟きながら他の怪我人の所に急いだ。


「そこから沢山血が出てるなら、脚の付け根をきつく縛って止血!」

手のすいた会所の役人さんとかが手伝ってくれているのだけど、お酒をかけての消毒と、晒を巻くぐらいの応急処置。

アルコールをかけるという知恵は昔から一緒みたいだけど…そのまま傷に包帯したら、くっつくし、ばい菌が入りそうだよ。

それにまだまだ出血してるし…!

「塗り薬ありませんか?軟膏って言うのかな?」

「おますで」

「お酒をかけてから、それを塗って晒を巻いて。外す時、血糊でくっついて大変な事になるから」

一通り見て回って、手伝って、沖田さんの所に戻った。


ぐったりとした様は変わらなくて…

わたしは唇をかむ。

「沖田さん…」

背後の池田屋では、まだ物音と、怒号がしてる。

「皆、頑張って、どうか無事で…」

呟くわたしに向けられた強い視線に気づく。


紗英さんだった。
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