輪廻ノ空-新選組異聞-
わたしは思わず、隣を歩く沖田さんの腕にしがみついてた。

まったく、誰ひとりとして自分を知ってる人のいない、別次元に放り込まれた。そう思ったら、足元から地面が崩れて奈落の底に吸い込まれていってしまうような錯覚を覚えて。世の中の全員が他人なんだよ。お父さんも、お母さんも、友達もいなくて…。たったひとり。

「な、何ですか」

沖田さんは慌てて離れて行こうとして。わたしは更にぎゅっと腕にしがみついた。

「わたし、たったひとりです。この世の中に、誰もいない」

怖い…と言いかけたけれど、それだけは飲み込んだ。沖田さんが盛大な溜息をついたから。

「やはりあなたは…屯所に置いてはいけないかも知れませんね。そのような状態では命がいくつあっても足りない。ましてや…怪しまれちまってお終いです。おなごになって、自分の所に戻れるまでひっそり暮らした方がいい」

「嫌です!」

わたしは慌てて沖田さんから離れた。

「これ以上ひとりにしないで下さい」

言いながら溢れてきそうになる涙を我慢して、頭を下げた。
唯一名前を知っていて、親しみすら感じた沖田さんとまで離れたら…それこそ生きていけない。なかなか座らない肚。座りかけてもまた不安が込み上げ、座りかけてもまた怖くなって。でも、この人に見放されるのだけはダメだ。

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