輪廻ノ空-新選組異聞-


「壬生寺に行くのはやめて、あの濡れ縁の端っこで、ゆっくり話でもしましょうか」

「で、でも見つかったらまた、男色の流行に拍車をかけるって、怒られますよ」

ゆっくり二人で話せるのは嬉しいけど…。

前、齋藤さんに怒られたし。

「ここらへんは幹部とか、滅多にないお客さんしか来ませんし」

大丈夫ですよ、と笑顔で言われて。わたしも思わず笑みを返してた。



「にしても…人は見かけによりませんね。あなたに医術の心得があったなんて」

「ないない!ないですよ!」

見かけによらないってのは、失礼ですけど、とチクリと言って。

「ちょっと知ってるだけで、何も技術はありません!!応急手当てぐらいしか出来ませんから」

「でも凄いですよ」

「今回の手当てぐらいなら、普通に生きてたら知ってる事ですから…!」

水を飲まないなんて…信じられない!と、また口にしたら、沖田さんは眉を困ったように下げて。

「巡察の時に…通りがかった娘さん達が…」

汗臭い男衆は何にも増して嫌いどすぅ、と言っていた。と沖田さんは苦笑した。

「……それで?」

「あなたにそう思われたくなくて…」

「沖田さん…」

馬鹿ですか!!

と、叫んでた。

「臭くないのと、命と、どっちが大事ですか!!」

って言うか…そんな事で嫌いになんてなる訳ない!

ビシビシ言葉を投げつけたら、沖田さんはほっぺたを膨らませて。

「怒る気持ちは重々承知です。それに嫌われたりしないにしても、臭いと思われるのは、嫌ですから」

おなごより男の方が繊細なんじゃないですか、とブツブツ…。

余りに愛しさがこみ上げて。

でもおかしくて。

思わず吹き出した。

「あ、こら!」

沖田さんは怒ったようにわたしの前髪をグシャグシャに混ぜた。

賑やかな笑い声がお互いの唇から漏れる。


と、土方さんのいる副長室なかの障子が開いた。

「うるせぇ!」

って怒鳴られるかと思って、慌てて口をおさえた。

でも違って。

「蘭丸、客人に茶を頼む」

と言われた。
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