輪廻ノ空-新選組異聞-
「は…い」

「二方だからな」

何でわたしがお茶汲み…。

手近にいたからだろうけど…。

折角沖田さんと楽しく過ごしてるのに、という不満の苦笑いを沖田さんに向けて。

でも「行って参ります」と言い置いて、頷く沖田さんを後に、お勝手に回る。

厨で手早くお茶をいれて、ちょうどあった落雁を小さな竹の笊に懐紙を敷いて入れ、お茶請けとして一緒にお盆に乗せる。



副長室に近づくにつれて、べらんめぇ調な言葉が聞こえてくる。

伊庭八郎さんも綺麗なべらんめぇ調だったけど、こっちはもっと…なんというか…下品?

なんて事を考えながら立ち止まる。

「副長、お茶をお持ち致しました」

障子の前で膝をついて告げる。

「入れ」

「失礼致します」


「須藤という若手の隊士です」

土方さんはまず私を紹介して。

「須藤、こちらは幕府の軍艦奉行、勝安房守海舟様。そして甥ごさんの累多さん」

「お目にかかれて光栄です。須藤蘭丸と申します」

って、カツアワ…ノカミカイ?…シュウだっけ?

なんて知らないけど…。幕府の軍艦奉行さんなら偉い人なんだろう。

にしては…下町風だけど…。


なんて思いながら、この時代にしちゃ珍しい、かなり濃い顔のそのおじさんを見つめて笑みを向け、頭を下げる。


「おっ、べっぴんさんだね。累多も負けたんじゃないかえ」

「何をおっしゃるのですか、叔父上」

と、おじさんの隣に座る若いお武家さんは、抗議しながらも、折り目正しい様子で。見るからに…美男…かな?なんだか、どこかで会った事がある気がする…。

「勝累多と申します。以後お見知り置きを」

「は、はい!」

スッと頭を下げての挨拶に、わたしも慌てて頭を下げた。

「では…粗茶ですが」

と、お茶をそれぞれに配って、干菓子も置いて。

何故だかニヤニヤしている土方さんをちょっと睨んでからわたしは副長室を後にした。
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