輪廻ノ空-新選組異聞-



「まんず、須藤さぁではねぇが!」

池田屋事件のあった六月五日の翌々日から二日間の日程だった大坂出張を終えて、九日正午過ぎに屯所に戻って、式台で草鞋を脱いでたら、突然背後から声を掛けられた。

この方言…。

「柴さん!」

あ、会津からの増援部隊!と続けたら頷いて。

「今日がら二十名、応援に馳せ参じたべし。まさが、あん後に大事になるとは思うていねがったからなし、汝(にし)が無事で、まんず安堵だべし」

「ありがとう。でもわたしは屯所の警備隊だったから、あの現場にはいなかったんだ」

苦笑を向けると、どの持ち場も危険には変わりなく、屯所が襲われなくて良かったと言ってくれた。

「このたびは慣れない新選組でのお手伝い、ありがとうございます」

わたしは心を込めて言った。

かなり勝手が違うと思うから、無理はしないで下さいと付け足したら、無理はしないが、持てる力を惜しみなく使いたいと真顔で返された。

「本来ならば我ら会津家中が迅速に動くべきところ」

だから精一杯手伝うと、爽やかな武士っぷりだった。


「おや、お二人はもう知己でしたか?」

おかえり、蘭丸、と現れた沖田さんが目を丸くした。

「池田屋の日に、ご本陣に使いに行った時、柴さんが走って忘れ物を届けて下さったのです」

「そうでしたか」

沖田さんは納得したように頷いて。

「彼と私は歳が近いんですよ。気が合いそうです」

「そうなのですか!」

「沖田先生、歳が近いとはいえ、拙者は新選組隊士としては若輩。ご指導ご鞭撻を宜しく頼みます」

真面目な応答に、沖田さんは額をかいた。

「あの、もっと気楽にして下さいね。力んでいては、仕事にも力が入りすぎて勇み足になってしまいますから」

と、微苦笑で告げた。

「ありがとうございます!肝に銘じます」

と、またまた固い返事。でもすぐに三人で笑みを交わし合った。

爽やかな風が入って、屯所もまた新たなにぎやかさになりそうな、そんな予感がした。


でも…それはあっという間に終わってしまう事になってしまった。
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