輪廻ノ空-新選組異聞-
東山は清水寺からすぐの三寧坂の明保野亭に、長州の過激派浪士達が潜伏しているらしい、という監察方島田さんの情報で、新選組隊士と一緒に、会津からの増援隊士も一緒に出動したのは、翌日の事だった。

武田観柳斉さんの隊十五名と、会津の五名での出動だった。

「もし乱闘になったら、怒号とかで気持ちが逼迫して上ずってしまうけど、とにかく深呼吸して落ち着いて下さい。頭で分かっていても、現場独特の雰囲気は想像以上ですから」

わたしも沖田さんの下で巡察に出ていた最初は、いつも凄く気持ちが上ずってた。

だから、実感も込めて、出動していく柴さんに告げた。

柴さんは深々と頷いて、颯爽と出動していった。




「あれ?土方さん。柴さんは戻ってこなかったんですか?」

御用改めが終わって皆が帰隊してきたのに、柴さんの姿が見えず、わたしは一抹の不安を感じながら、復命を受け終わって副長室に戻ろうとしている土方さんを呼び止めた。

「ちょいと訳ありでな。会津本陣に行っている」

「そうでしたか」

何かあって、怪我をしたり…もしかして亡くなった?とか、悪い想像が頭をかすめてただけに、安心した。

でも…やっぱり不安は拭えなくて…。

どこかで見た名前だと思ってた経緯もあるし、と年表を出してきてみた。

「えーと…」

元治元年…池田屋事件の後。


ひらり、と手から年表が落ちた。


「うそ…」


拾い上げて、震える手でもう一度年表を見る。


六月十日
明保野亭事件 会津藩士・柴司 切腹(十二日)

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