輪廻ノ空-新選組異聞-
沈黙が落ちる。
何を、何から、どう言えば…
と、言葉がつかえて出てこない。
で、結局出てきたのは、土佐藩への恨み言。
「土佐の武士ってのは、本当の武士道を知らないのです!明らかに悪いのは麻田なのに…!」
「まんず…。土佐は藩としては佐幕。下級の士籍の者はぁ、長州に同調するのが多数派だべし…難癖つける機会さ与えた私が悪いんだなし。そのように責めてはいかぬべ」
逆にわたしが宥められる始末で。
「柴さん、柴さんの潔白は皆が承知です。だから、絶対無事に済みますよ!わたしはそう信じています」
わたしは身を乗り出して、何だか悟りを開いたような、静かな様子の柴さんに告げた。
でも柴さんは薄く笑みを浮かべて首を振った。
「池田屋の日、汝が落とした紙…」
どきりと、大きく心臓が跳ねた。
耳元で聞こえるぐらい大きな動悸が響く。
「嘘はならぬというのが会津のこども時分からの一番の決まり事だべしが…」
本当はあの時、中を改めて見てしまったのだと、柴さんは言った。
「明日、私は切腹だなし」
「柴さん……」
あれは…と、カラカラになった喉から声を必死で絞り出す。
「真かどうか分かりませんから!」
「過去のこと、先の事が記してあった。過去を見れば、後は先の事だと分かるべ」
「でも…!」
「会津の為なら、この命、惜しぐはねぇ。死ぬ事も難しくはねぇ。毎日食事の前さ、切腹の作法を稽古しているからなし」
食事の前に毎日…切腹の作法を…?
なんて藩だろう。
わたしはもう、何も言えなかった。
ただ…年表を落とした自分が情けなくて、
というよりもう、憎らしくて。悔しくて。
自然と悔し涙が込み上げてきた。