輪廻ノ空-新選組異聞-
「なじょして汝が泣くんだべし」

驚いたように、柴さんはわたしの顔を覗き込んだ。

「申し訳ありません。わたしがあの紙を落としたばかりに」

泣いても仕方のないことだからと、必死に我慢しながら頭を下げた。

「泣ぐな!」

一呼吸の間があってから、ビシリと声が飛んだ。

「もののふが、そっだら簡単に涙さ見せるんでねぇ!」

泣いても何も変わらない、無駄に泣くなと、厳しい口調で言われた。

「はっ、はいっ」

わたしは慌てて居住まいを正す。

「見でも、見でなぐても宿命は宿命だべし。汝は何も悪ぐねぇからなし、泣ぐな」

一転優しい口調で言われた。

明日死ぬかも…わたしはまだ「かも」って言いたいような運命を前にしながら…なんて平然としてるんだろう。

伊木さんもそうだった。

生き死にの覚悟が、まったくわたしの想像なんかじゃ及ばないぐらい固く、大きい人達なんだ。

「すみません、もう泣いたりなどしません!!」

わたしは顔を上げてキッパリ言った。

「うむ」

柴さんは微笑を頷かせた。

「沖田先生や武田先生にも宜しくお伝えくんつぇ」

「わかりました。必ず伝えさせて頂きます」

話せば話す程、柴さんが明日にはいなくなる事が信じられなくて。

柴さん本人が他人事みたいに落ち着いてるから…。

「では…失礼しますね」

後ろ髪引かれる思いで言った。

そして立ち上がった。

「須藤さぁ」

呼び止められた。

「有難う」

わたしは首を振りたいのを堪えて、頷いた。

「こちらこそありがとうございました。柴さんに会えて良かった。会津藩というものが、とても良くわかりました」

心底、凄いと思った。
生温い気持ちでは口も聞きにくいほど真面目で確固たる覚悟で生きてる人達の集まり。

「光栄だなし」

柴さんは本当に嬉しそうに笑った。




わたしは会津本陣を後にした。



帰隊して、厨で年表を灰にした。



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