輪廻ノ空-新選組異聞-
気を取り直したわたしは、河原を離れて通りに戻った。
長州藩の兵隊さんが大坂に来て、大坂の人口が急に増えた気がする。
町のあちこち、しばらくの滞在になるのか、歩き回ったり、大坂の町を楽しんでるような人達までいてさ。
わたしはお団子屋さんで一つの床几に詰め詰めに座ってる長州藩士さんらしき人達を見つけて、そっちに足を向けた。
「お団子ちょうだい」
わたしは店の娘さんに言って、詰め詰め床几の向かいの誰も恐れて座らない床几に腰を下ろした。
「えらい窮屈そうに座ってはりますね」
山崎さんから特訓を受けている大阪弁で声をかけた。
「じろじろ見な」
端っこの人が声を荒げた。
「せやかて…目が行きます。」
わたしはひるまずに、でも相手を怒らせないように笑顔で答えた。
「それに、そないな座り方してはったら、怖くてお客はん寄り付いてないですやん」
「そうなのか…!?」
真ん中に座ってた人が驚いたように周りを見回した。
「真じゃな」
そのお武家さんは確かめると、一緒に座っていた仲間に、散って座るように指示して。
「ただでさえ増えちょる藩士で町衆に迷惑をかけてはいかんと思うたのじゃが…」
有り難う娘さん、とそのお武家は礼を言ってくれた。
「わたしも挨拶も無しにずけずけ申し上げて失礼しました」
頭を下げついでに言葉を続ける。
「それより…ほんまに戦になるんですか」
それが町衆の一番の心配だと言ったら、あっさり肯定された。
「新選組の阿呆らのせいで仲間は死んでしまうし、腐った世を正す計画も頓挫させられたんじゃ」
血気にはやるのはいけないが、それでは藩として収まらない状況だと、そのお武家さんは、単なる町娘に過ぎないわたしにも親切に説明してくれた。
「なるべく穏便にと考えちょった久坂先生にそこまで決意させるんじゃ。戦は避けられん」
と、隣に座っていたお武家さんが怒ったような声で付け足した。
…久坂!
流石に九ヶ月も幕末にいると耳にする事も多い浪士の名前。
長州の久坂玄瑞は中でも大物だった。