輪廻ノ空-新選組異聞-
屯所に戻って、復命を終えたわたしと山崎さんには半日の非番が出来た。


「よし!!」

稽古するぞ、と監察方の室に戻って荷解きを終えたわたしは立ち上がった。

「はぁ~。熱心やなぁ」

非番やのに稽古かいな!と山崎さんは呆れたような声で言ったけど、すぐに頷いて。

「ええ心掛け、心意気やな」

「ありがとうございます」

只でさえ刀を持つ機会が減って腕が落ちた気がする。

そんなところで戦となれば、少しでも腕を磨いておかないと落ち着かない。

わたしは山崎さんに背を向けて、手早く胴着と袴の稽古着に着替えて道場に向かった。



師範として道場に入っていたのは、さっき一緒に戻ったばかりの沖田さんだった。

「やぁ、蘭丸。久しぶりに手合わせが出来ますね」

嬉しそうに竹刀を手に近付いてきた。

でも、瞳は真剣そのもの。

純粋に剣術の稽古を出来るのが嬉しいという、遣い手の期待に満ちた嬉しさって言うのかな。

わたしも良く分かる気持ち。

強い人と立ち合えるのは快感だから。

「宜しくお願い致します!!」

わたしは深々と頭を下げてから、手早く防具を身に着けた。

道場に居合わせた全員が、手を止めてわたしと沖田さんの立ち合いを見ようとしているのが、静まり返った道場の空気で伝わってきた。

「念友同士なんだろ、本気で立ち合えるのかね」

というような、ヒソヒソ声が嫌でも耳に入ってくる。

でも。

面を被って、紐をピシッと締め上げた瞬間、雑念は消えて、面金の向こうに見える沖田さんの表情だけに意識は集中してた。

「では、始めますよ」

微笑と共に告げられた言葉が終わった瞬間、沖田さんの顔は剣士のものとなってた。

「お願い致します!」

気合いを込めて鋭く答えたわたしは、サッと間合いを取って、沖田さんと対峙した。
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