輪廻ノ空-新選組異聞-



「くっそーーーーーっ」



思わず悔しくて叫ぶ。

新選組で稽古に参加し始めた頃は、悔しいなんて思えないぐらい弱かったけれど…。

最初から動きにだけはついて行けたわたしは、すぐに厳しい稽古のお陰で…そう、沖田さんの鬼のしごきみたいな稽古のお陰で、かなり腕を上げたけど…。

まだ沖田さんから会心の勝ちを奪った事がない。

悔しいと思うだけで、身の程知らずなのかもしれないけど、本当に悔しい。

「よく出来ました」

面金の向こうで、にっこり笑う沖田さんの声。


ここで、一斉に道場の緊迫していた空気がゆるんで、あちこちからため息が漏れた。

ざわざわと、感嘆の言葉が漏れ聞こえてくる。

「見えたか?」

「目で追うのがやっとだった」

「沖田先生…容赦無さ過ぎだな…」

ひそひそ

ぼそぼそ

「皆さんは、この須藤さんより沢山稽古出来るのですから、もっと上達するはずです!」

沖田さんはザワザワしてる道場に活を入れるような大きな声で言った。

わたしを見習え、って。

恥ずかしい!

そんな風に思いながら並んで座って防具を外してた。

そしたら…

「沖田先生…。床に血糊が」

「え?」

小声で告げに来た隊士の指差す方を見たら結構な血の跡。

「あ…」

肘かも。倒れた時に強打した。

夢中で忘れてたけど、思い出して肘を見る。


途端に沖田さんにガシッと腕を掴まれた。

「行きますよ。手当てをします」

胴着の五分袖の裾が真っ赤に染まってた。

「わっ」

引っ張られるままに立ち上がって道場の入り口に向かった。

「すみませんが掃除をお願いします」

沖田さんは忘れずに指示を出してわたしを前川邸まで引っ張って行った。
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