輪廻ノ空-新選組異聞-
しばらく沈黙がおりて。
蝉の声が際立って聞こえてきて。
わたしは蝉がいることに初めて気付いたよ。
「蝉」
「え?」
「蝉が鳴いてます」
「暫く前から鳴き始めてますよ」
朝夕はひぐらしが、と、沖田さんは中庭に面した障子を少し開いた。
途端にシャワーのような蝉の声。
「今初めて蝉に気付きました…」
「池田屋からこっち、あなたは落ち着く間がありませんでしたし、気持ちも張り詰めていたのですよ」
沖田さんが微苦笑を向けて言ってくれた言葉に、わたしは頷いた。
本当にそうだ。
まったく休まらない毎日…だったんだ。全然考えてなかったけど。
「夏…です」
この京に来て初めての夏。
蝉が沢山鳴いて、目を閉じたら、自分の世界と何も変わってないって思えるぐらい力強い鳴き声。
そう思ったら…途端に夏の思い出がよみがえってきた。
道場脇の桜の木には沢山蝉が来て、うるさいぐらい鳴いてた。
父さんが捕まえて…虫なんか平気なわたしに留まらせたりして…。
何だろう。
夏の思い出って…蝉の声だけでリアルさが増して…嫌に胸に刺さる。
プールサイドの蝉もうるさかったとか、カナカナと鳴くひぐらしは切なすぎて苦手、とか…ラジオ体操の時も鳴いてたとか思い出すし…
でも、今のこの夏は…幕府始まって以来空前の戦争規模とか、沖田さん達しかいないんだ、とか…
怖いぐらい凝縮された夏になるんだ。