輪廻ノ空-新選組異聞-
「……っ」
突然沖田さんの指が頬に触れて、心臓が跳ねた。
「涙が」
拭ってくれた指先を、沖田さんは自分の唇で拭って。
ドキン、と更に心臓が跳ねる。
「な、なな泣いてましたかっ」
焦って顔を袖でゴシゴシ拭いた。
「何か思い出があるのですか?」
聞かれて曖昧に頷いた。
「これといった思い出がある訳じゃないんです。蝉がうるさいぐらい鳴いていて、プールに行ったり、虫取りしたり、夜は花火をしたり…普通なんだけど…そういう当たり前がぽっかり無いことに気付きました。誰も周りにいなくて…父さんも…友達も…」
頷きながら聞いてくれてた沖田さんは、困ったような苦笑を浮かべて。
「私はあなたのお父上や友達にはなれないですが…」
ずっとあなたの傍にいますよ、とわたしのほっぺたを撫でて、そのままわたしの顔を固定して顔を寄せてきた。
ちゅ
と、小さくわたしの唇に触れて離れた唇。
一瞬だったのに。
込められた愛情の深さと、寂しさが、ほっぺたに触れた手から伝わってきて…
時間を飛び越えてきたわたしとの距離を感じてるんだって分かって、わたしは反射的に沖田さんに抱きついてた。
「わたし、沖田さんがいてくれるから自分の時代に帰りたいって全然思ってないんです。沖田さんの傍にいたいと願っているのはわたしです!!」
ただちょっとホームシックになったみたいで。
「ほおむしっく?」
「はっ、日本語で何て言うのかな」
「異国の言葉が分かるのですか?」
二重に驚いたような顔を上げた沖田さん。
「と、とにかく!沖田さんも江戸から上京してきた後、故郷の家族に会いたいとか、友達に会いたいって無性に懐かしくなったりしませんでしたか?」
「あ…そうですね」
言われて見れば…と、布団に手をついてわたしに倒れ込むような態勢で抱きしめられたまま、沖田さんは頷いた。
「だとすれば…」
沖田さんは言って、少し力のゆるんでたわたしの腕から体を起こして。
「あなたはもっと…もっと寂しいじゃないですか」
絶対に会えない家族や友達です、と。
「いいえ!沖田さんさえいれば…わたしは幸せです!!寂しくないです」