輪廻ノ空-新選組異聞-
「そうですね…」

微苦笑の沖田さんは、わたしの濡れた唇をそっと親指で拭ってくれながら、更にボソッと続けた。

「土方さんなら…うまくしてしまうのでしょうけれど…」

「土方さん?」

なんで突然土方さんの名前?

この室は確かに土方さんの部屋だし、土方さんはやり手って噂だし、男前だから充分に手慣れてそうな事は想像出来る。

この屯所の中でも…奥まった自室なら難なく男女のアレ…は出来ると思う。

沖田さんは…

と言うか、わたしだって無理だよ!!

声が…

抑えられない…よっ!

わたしの心の中のひとり言を知る由もなく、沖田さんは続けた。

「土方さんでしたら、支障なくお互いに満たし合える力量がありますよね」

私には…と続けた沖田さんをわたしは遮った。

「いきなり土方さんになるのは無理です!!ですから無理はしないでおきましょう?」

何だか、そういうコトの相談…密談って言うのかな。だから…恥ずかしくて、わたしは沖田さんの肩をバンバン叩いて。

「わたしは次の機会まで待てますし!」

「ですが…」

私は待てません、と沖田さんはキッパリ言った。

真剣な眼差しで。
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