輪廻ノ空-新選組異聞-
わたしは枕元に水の入った手桶があるのを思い出した。

そこに浸かる手拭いに手を伸ばした。

それを取って唇を拭う。

ゴシゴシ、

ゴシゴシ。

きつくこすりながら、沖田さんに謝って。

「あなたは悪くないですから!」

慌てた沖田さんはわたしの手から手拭いを取り上げて、そのまま再びわたしの体を強く抱きしめた。

「誰も、何も悪くないのです」

この戦が間近な中、激しい稽古を心掛けた私達も、招いた怪我も、戦には役立つ経験となります、と沖田さんは早口に言って。

わたしは腕の中で何度も頷きながらその言葉を聞いてた。

「だから、その治療も、戦場では誰が口に移そうと、着物を剥ごうとも…当然の処置であり、馬鹿な悋気など起こしている場合ではありません」

「はい」

わたしは声に出して頷いた。

沖田さんは体を離して、わたしの顔を見て続けた。

「心してあたらなくては」

「はい」


戦の気配を色濃く感じてた。

わたしも沖田さんも。

それを思い出して気持ちを引き締めた。

命があってこそ、なのだから。

死ぬ覚悟は、一番隊の隊士として巡察に出ていた頃に、必然的に固まってる。

だから諦めにも似た気持ちは根底にあって…。

でも、大切な人の為に生き抜くという気迫は大事なのだと、様々な任務の中、沖田さんの存在が教えてくれた。

きっと沖田さんも同じ気持ちでいてくれてると思う。


「生き抜く為に頑張りましょう」


確かに注がれた言葉に、わたしはしっかりと頷いて、「はい、もちろんです」と答えた。


「どのような規模の戦になるかは分かりませんが…」

戦い抜いた暁には、と沖田さんは少し表情をゆるめて言葉を継いだ。

「生きているのだと、あなたの温もりで実感させて下さい」

と。

「…っ」

わたしはほっぺたを熱くしながら頷いた。

「はい…必ず」




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