輪廻ノ空-新選組異聞-
「ちゃんと…ちゃんと、逃げましたよね」
たくさんの人がこの真黒な焼け野原の、倒れた建物の下で焼け死んでいたら…
そう思うだけで、見たこともない風景に震え出すからだを、自分の腕でぎゅっと抑えながら呟いた。
増水した川から助けてあげた壱太郎くんのお家の人とか…。
あちこちで顔見知りになった人達の顔をどんどん浮かんでくる。
見た目も凄いけど、臭いも凄くて。
焼けた臭い以外も混ざってるような気がするんだ。
夏だし…。
「蘭丸…」
自分の腕では抑えきれないぐらいガタガタと震えていると、沖田さんが後ろからしっかりと肩を抑えてくれて。
抱きしめる訳にはいかないから、と小声でささやいてくれてから、続く沖田さんの言葉。
「あなたは優しいですね。大丈夫。大火は一カ所で始まると、徐々に広がるものです。これだけ焼けてしまいましたが、亡くなった方は多くないはずです」
「そう、ですか…?」
ちょっとホッとしたけど…。
「せやけど」
と、わたしたちの隣に立っていた山崎さんが口を開いた。
「大火事に慣れとる江戸と違うて、京は大火が少ない土地ですよって。まずは人の気持ちが萎えとるやろ思います。それに、慣れとらん中で戦で生じた火。混乱せずに避難するのは難しおます」
「江戸はそんなに火事が?」
わたしは思わず目を丸くした。
「私が親や師匠から聞くだけで、身近に二回大火がありました。それに私も、安政の大地震の時の火事では、このような景色を見ています。地震が原因だったので…もっと酷かったですが…」
自分の家や家具を失ってしまうって…どういう気持ちだろうと…。
わたしには想像がつかないけれど…
地震だって…東京にいたってそんな家が崩れるようなものはまだ経験してない。
沖田さんには分かるんだろうな。
何をすべきか、ちゃんと考え始めている顔。
土方さんも様子を自分の目で確かめてくるからと、隊を待機させて自分は馬で駆けて行ってしまった。