輪廻ノ空-新選組異聞-
じりじりと間合いをとって後退。

ボクシングのファイティングポーズみたいに構えた。

「おっ、やるのか」

土方さんは、小馬鹿にしたように唇にやにや笑いを浮かべて。

超〜、腹立つ!

しかも、あの唇で…石田散薬を、

く、く、口移し…。

そんな私の心の中の悶々も意に介さずの土方さん。

「おなごとは思えん反応だな」

とわたしの神経を逆撫で。

「土方さん!なんのかんの言いながらわたしに構いますよね」

わたしのこと、好きなんじゃないですか!

と思わず口から出た。

すると土方さんは、にやついていたのを引っ込めて、目を丸くした。

「はぁっ!?」

驚いたように言って。

そして吹いた。盛大に。

「馬鹿か、てめぇは!自惚れも大概にしやがれ!」

そう言って、私のおでこに指パッチン。

「いだっ」

「惚れたおなごが泣いていたらな、」

こうするんだ、と。

「ぎゃっ」

伸びて来た腕が、ぐいっと背中からわたしの体を引き寄せて思い切り深く抱きしめられてた。

「ちょっ、やめて下さい!これこそ見られたらまずいっちゅうね〜ん」

と、思わず山崎さんに教わっている…というか、特訓されてる大阪弁が出た。

ほんとに、なんなのこの力!

と、焦りまくっている私をそのままに、土方さんは再び吹き出した。

「おめぇは…」

そしてやっと解放されて。

「ちゅうね〜ん、とはな!なかなか勉学が進んでいるようじゃねぇか」

笑いながら言って、頭をポンポンと叩かれた。

「元気、出ただろ?」

「…っ!?」

……………そうきたか。

そうくるんだ!

腹立つけど…

優しいんだ……な、これが。




< 245 / 297 >

この作品をシェア

pagetop