輪廻ノ空-新選組異聞-
「お帰りなさい、お疲れさまでした」
「やぁ、蘭丸。待っていて……素振りをしていたんですね」
手に持ったままだった木刀を見た沖田さんは、言葉を途中で切ってから、わたしに「偉い偉い」と笑みを向けてくれた。
「どうせ待つなら、稽古をしながら、と思いました」
わたしは今日は非番なのです、と告げたら、沖田さんは更に笑みを深めた。
「そうでしたか。では…ちょっと町に出ますか?」
「お疲れでは?」
汗、ちゃんとかいてらっしゃいますね、と、池田屋事件の頃の汗をかかなかったせいで倒れてしまった沖田さんが、まだ鮮明に思い出される分、ちゃんと額に浮かぶ汗を確認しながら言ったわたし。
「あなたも汗だらけですが…」
沖田さんに顔を覗き込まれて、ちょっと汗臭い気のするわたしは一歩下がって。
「暑いからじっとしていても汗はかきますよ」
「じゃあ、この際、汗をかきかき出掛けちまいましょう」
と、沖田さんは言って、隊服の黒い羽織を脱いで門番の隊士に渡して。
「すみませんが、これを私の室に放り込んでおいてください」
と告げて、わたしの手を引っ張るとさっき潜ったばかりの長屋門を潜って表に出た。
「町は大変な事になっていましたよ。皆荒んでいますね…」
ちょっと声のトーンを落として。
「戦に巻き込まれた上に、焼け出されてしまったら…当然気持ちも荒れますよね」
わたしも声のトーンを落として答えた。
「でも、だからこそちゃんと見て、そして少しでも活気が戻るようにと思いました」
きりりとした表情で言う沖田さん。
頼もしくて。
そして前向きな姿はわたしを更に沖田さんを好きにさせるんだ。
「情報集めにもなりますし、被害は無かったけれど、だからこそ噂の宝庫になってるでしょうし、東山にいきましょう」
「清水寺、とかでしょうか?」
「そうですね」
なんだか…デートみたい。なんて暢気な事を考えてしまって、ちょっと反省しつつ。
「甘酒でも飲みましょうか」
「は?甘酒…!?こんなに暑いのに…!」
驚愕するわたしに、沖田さんの方がビックリした顔になった。
「夏に飲む物でしょう。夏の季語ですよ。そしてもう晩夏です」
えーっ!?
知らなかった…。