輪廻ノ空-新選組異聞-
鴨川を越えた東山は火災を免れて、活気があった。
でも…
武家姿のわたし達に向けられる視線は冷たい。
視線だけじゃなく、聞こえよがしな言葉も痛い程刺々しい。
「お武家なんか、みんなのうなってしもたらええのどす」
「お武家はんなんかうちら町方に何の益もおへん」
商売をしてる人達はまだ、続々と上洛してきた浪人やら武士のお陰で潤ってるんだろう。表立っては愛想良くしてくれる。
「どうぞお寄りやすぅ」
と声をかけてくる。
でも、すっかり荒んだ町の人達の事を思うと、早く清水寺に行きたかった。
確か、あそこの舞台からは京都の町中が見渡せたから。
この今の状況をしっかり受け止めたかった。
「沖田さん、急ぎましょう」
わたしは二年坂を駆け足になって上り、三寧坂も足早に上った。
「わっ!」
わわわ。石段になった坂道。袴の裾を踏みつけて前のめりになった。
「危ない」
と、沖田さんの冷静な声がして、ぐいっと腰板を引いて。転ばなかったんだけど、そのまま後ろにバランスを崩して、沖田さんの胸の中に背中から倒れ込んでた。
沖田さんはさすがで、ちょっと後ろに体を移動させながら、落ちる勢いを殺しながら受け止めてくれた。
それでも結構な衝撃だったのは、結構急な坂が石段になっているからで。
「す、すすすすみませんでした」
わたしは慌てて自分の足でしっかり立ち上がると振り返って頭を下げた。
「気をつけて下さいよ。この坂は三年坂とも言って、転ぶと三年以内に死んじまうっていう噂があるんですよ」
「…っ!」
わたしは、その言葉に戦慄を覚えた。
ぎょっとなって、声も出なくて。
沖田さんは軽い感じで、そんなの信じてないって口ぶりだったけど…。
でも、わたしにはグサッと刺さる言葉だったんだ。
……慶応四年五月…。
1868年。今は、1864年。
心の中であっという間に確認出来るのは、もう何度も何度も考えた事だから。
大丈夫、三年以上時間はある。
……と言っても…四年は…切ってる……。
でも、大丈夫、こんな所でそんな迷信のせいで……
「……うっ」
一気に考えているうちに、胸がつまった。