輪廻ノ空-新選組異聞-
「同じです、清水寺!」
わたしは急ぎ足で舞台へと向かいながら、沖田さんを振り返って。
「あなたの時代と、変わらずあるのですね」
沖田さんも少し感慨深い顔になってくれた。
「はい」
舞台に出ると、手摺りの所まで急ぐ。
「あ…」
目の前に開けた景色に思わず声が出る。
あいにく清水寺は、洛中から南東。街中の北側は見えないけれど、それでも黒く異様な区域が見えてた。
「沢山、焼けてしまいましたね。王城の地が」
しばらくわたしの隣で、無言でいた沖田さんのかすれた声での呟きに、わたしは言葉での返事が出てこなくて。頷くのが精一杯。
わたしは、もっと沢山見える場所はないかと、舞台の南端まで移動して、身を乗り出したりしながら眺めて。
少しだけ広がった視界も黒いことに唇を噛んで、直立不動で立ち尽くすのがやっと。
「僅かでも、京の人たちに良く思われていなくても、わたしたちなりに役立てるよう動かないといけませんね」
ここに来るまでも同じように言ったけど、この景色を見る前と後では、全然気持ちが違ってた。
「復興を助けるのも大事ですが…戦がなくならないと」
難しいことはわからない。
でも、争ってたらダメな事は分かる。しかも同じ日本人同士で。
わたしはひたすら街を見つめながら言ってた。
「ねぇ、沖田さん。もっと京全体が見える場所はないでしょうか」
わたしはクルッと顔を沖田さんに向けてきいた。
「……」
沖田さんはわたしの質問には答えずに、じっとわたしを見つめてから、ちょっと笑みを浮かべて。
「凛として逞しい」
独りでもすっくと立つ百合の花のようです、と沖田さんは少し目を細めた。
「沖田さん」
わたしは「独り」に反応して。
「百合が独りで立っていられるのは、素晴らしい土、養分、空気、水があるからですよ」
わたしは沖田さんの方に体を寄せて。
「わたしには沖田さんがいて下さいます。だから、強くなりたいと思うし、強くなれるんだと思います」
「蘭丸…」
沖田さんは目を見開いてから、照れ臭そうに、でも嬉しそうな顔で笑みこぼした。