輪廻ノ空-新選組異聞-


「ありがとう。そして、私もですよ」

あなたがいてくれます。

沖田さんの言葉に、胸がギュッとなる。

「ありがとうございます」

わたしも嬉しくて思い切り笑顔になってた。



「それでは、少し遠く、山道も歩きますが…もっと都を見渡せる所に行きましょうか」

沖田さんはわたしに告げて、引き返そうと方向転換をした。

「それはどこですか?」

わたしは沖田さんに並びながら聞いた。

「清水より北にある将軍塚です」

「将軍塚?」

「桓武天皇が京に遷都する時に、大きな将軍像を埋めた場所だそうです」

鎮護の意味もあって、都全体が見渡せる所を選んだそうです、と沖田さんは説明してくれた。

けど…

「…チンゴ…?」

相変わらず分からない単語に行き当たって。でもいい加減恥ずかしいし、ボソッと呟いたんだけど…。

「守る、という意味です」

沖田さんはしっかり聞いていて、呆れる風でもなく教えてくれた。

「なるほど。そういう場所でしたら、きっと良く見渡せますね」

わたしは納得して頷いた。

「最初からそちらにすれば良かったのですが…」

と、沖田さんが歯切れの悪い口調で。

「このような時に不謹慎ですが、あなたと清水寺に行ってみたかったのです」

ボソボソと続けられた言葉に、わたしは嬉しくて、大きき首を振った。

「嬉しいです。公のお役目に使命感をもって当たるのとは別に、わたし達それぞれも個人として生きているのですから」

そう言ったら、沖田さんは感嘆の表情になった。

「そうですね。そのように考えても良い。…参ったな…」

あなたの成長ぶりには驚かされちまってばかりだ、と笑って。

「さすがに…こちらに来て十ヶ月。色々と身をもって体験して、考えて、地に足がついたのだと思います」

「そうですね」

歩く歩調はゆるめず、段々と急な山道になってきても、息を上げずに話せるのも、体力が成長した証だろうし、気迫も整ったんだと思う。
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